「ODA大綱見直しに対する名古屋NGOセンター声明」を発表、13団体が賛同
岸田外務大臣の諮問に応じるため本年3月から行われていた「ODA大綱の見直しに関する有識者懇談会」が、去る6月26日外務大臣に対して「ODA大綱の見直しに関する有識者懇談会報告書」を提出しました。
これを受け、名古屋NGOセンターでは、「ODA大綱見直しに対する名古屋NGOセンター声明」を発表いたしました。
声明には下記の団体より賛同いただきました。
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ODA大綱見直しに対する名古屋NGOセンター声明
岸田外務大臣の諮問に応じるため本年3月から行われていた「ODA大綱の見直しに関する有識者懇談会」が終了し、去る6月26日(木)、外務大臣に対して「ODA大綱の見直しに関する有識者懇談会報告書」(以下、報告書)を提出しました。本来なら、現ODA大綱の内容と具体的なODA事業の実績とを比較考量し、現大綱の利点と問題点について分析と評価をしたうえで、新たな大綱のあり方を議論すべきでした。しかし、同懇談会に国際協力/開発協力の現場を熟知した委員は少数しかおらず、しかも、全4回という時間的制約の中で、具体的事例に基づいた議論は十分ではありませんでした。
報告書に示された方向が国際社会で共有されている国際協力/開発協力の価値観に照らして妥当かどうか、慎重に検討されなければなりません。
私たちは、将来世代の生存と福祉を損なうことのない社会発展こそが貧困と格差のない世界の実現に近づく道であるとの認識に基づき、新大綱策定にあたって、次の諸点を踏まえるべきと考えます。
1.「ODA四原則」の規範性を維持し、その実効性と有効性を活かすべき
報告書は現大綱の構成を大幅に改編する提案を行っています。その一つが現大綱の「ODA四原則」の解体再編です。
現大綱のODA四原則とは「環境と開発の両立」「軍事的用途及び国際紛争助長への使用の回避」「軍事支出、大量破壊兵器等の開発、武器の輸出等の動向に注意」「民主化の促進、基本的人権・自由の保障状況の動向に注意」です。これらは日本の援助によって住民被害や人権侵害、環境破壊が生じないよう、策定段階から実施段階までの援助の全プロセスを縛る規範として働く機能を有しています。報告書はこれをバラバラに解体し、「軍事的用途及び国際紛争助長への使用の回避」を「基本方針」に移し、他の3つの原則は文言を変え、新たな項目を追加し、「ODA実施上の配慮事項」として扱うよう記しています。「原則」から「基本方針」「配慮事項」への事実上の格下げと言えます。
「ODA四原則」に示されている規範性を現在優勢な援助潮流の言葉に翻訳すると、「持続可能な開発」「非軍事主義」「基本的人権の尊重」という言葉で表すことができます。「ODA四原則」は時代を経た今も援助の中心に置くべき規範力を有しています。「ODA四原則」の規範性を維持し、「持続可能な開発」「非軍事主義」「基本的人権の尊重」を新大綱の中心理念として位置づけ、「ODA四原則」の実効性と有効性を活かすべきです。
2.非軍事主義の原則に徹すべき
報告書は「基本方針」において、上記「ODA四原則」の「非軍事主義の原則」を踏襲し、「軍事的用途及び国際紛争助長への使用の回避には十分注意する」と記しています。しかし即座に「ただし」と続け、軍隊の非戦闘分野での活動(PKOや災害救援、民生目的の活動など)へのODAの使用については「一律に排除すべきでない」と付け加え、非戦闘分野での軍とODAとの連携を行う姿勢を示しています。
どちらに重点があるのか不分明な曖昧性は、明確な歯止めがない限り、権力バランスの動向に支配されやすく、アカウンタビリティーの欠如をもたらし、援助の効果を損なう要因となる恐れがあります。紛争や災害の後、生活基盤の破壊や心理的安心感の欠如等によって秩序が不安定化している地域で、軍と連携して行うODAは地域秩序の一層の不安定化と紛争発生の要因となる恐れがあります。また、領有権問題を抱える地域においては、非軍事的用途のために供与された機材が軍事目的に転用される可能性を排除できません。
「非軍事主義の原則」を依拠すべき最上位の規範として明確化し、ODA全体の羅針盤となるよう明記すべきです。その意味から、「ODA四原則」の規範性の維持は不可欠です。
3.より高次の、より普遍的な「平和」の追求を
報告書は、日本は「平和国家」として貢献する責務があると記しています。「平和は発展の前提条件」との考え方を示し、「平和」の実現を援助の重要な目的の一つと位置付けています。同時に、現政権の国家安全保障戦略に触れ、「積極的平和主義」とODAとの関連に言及しています。
「平和」の解釈と定義は国、地域、民族によって異なります。「平和」の名のもとに意見の異なる人々を敵とみなし、攻撃をしかけ、戦争を起こす例が近現代史においては多く存在します。国家安全保障による「平和」の追求は戦争や紛争を防止する反面、「平和」の解釈を巡って対立の原因にもなるという二律背反があります。
解釈と定義の違いを乗り越え、より高次の、より普遍的な「平和」へ到ることがこれからの国際社会の課題です。そのための議論は国連人権理事会においてすでに始まっています。「平和に対する権利の宣言草案」に関する議論です。同草案では、「すべての人々は平和に対する人権を有する」こと、「国家は平和に対する権利に対して基本的義務を負う」ことが謳われています。
これは、人間一人ひとりが恐怖と欠乏から自由であることを追求する「積極的平和」の理念を基礎とする「人間の安全保障」にも通じる考え方です。
より高次の、より普遍的な「平和」の追求を通じて、「平和国家」としての責務の実現を図るべきです。
4.貧困削減と格差の解消を最上位の目的に
報告書は、現大綱の「重点課題」において別々の項目として扱われている「貧困削減」と「持続的成長」を、「包摂性」という言葉によって一括りにし、経済成長によって貧困問題を解決する新たな論点を示しています。しかし経済成長と貧困削減とは全く異なるシステムで働く社会機能です。経済成長を追求するグローバル化や自由貿易の進展が富の偏在をもたらし、富める者はますます富み、貧しい者はますます貧しくなるという貧困と格差の拡大をもたらしているのが現実です。
報告書は一方で、「一人ひとりが恐怖と欠乏から逃れ、尊厳をもって生存する権利を享受する人間の安全保障の実現を中核とすべき」とも記しています。「人間の安全保障」は上記「平和に対する権利」の考え方に立ち、より高次の、より普遍的な平和概念の追求を目指しています。一人ひとりの生活向上と自立に着目する考え方を基本に置き、貧困削減と格差の解消を援助の最上位の目的とすべきです。
5.「持続的成長」から「ポスト成長」に重心を移すべき
報告書は、新しい開発協力の目指す方向として持続可能な開発の重要性を挙げる一方、具体的な議論では持続的な成長によって課題の解決を目指すことを提案しています。しかし、「持続可能な開発」と「持続的成長」とはその意味合いが全く違います。持続可能な開発は現世代の生存と福祉の実現を、将来世代の生存と福祉の実現を損なわないかたちで行う開発のことです。持続的成長とは、援助国から被援助国へ向かう投資が継続し、企業利益が拡大することです。
成長には限界があります。これを見据えることから持続可能な開発の考え方が生まれました。新しい開発協力の目指す方向においては、成長のみに頼らない持続可能な社会発展によって貧困と格差の問題の解決を目指すべく、「Sustainable Development」の意味を定義し直し、「ポスト成長」の考え方に重心を移すべきです。
6.市民参加と情報公開をさらに積極的に
現大綱においては「市民(国民)参加」と「情報公開」の重要性が謳われています。報告書にはこれらの課題についての記述がありません。
報告書は多様な主体・資金との連携を拡大する方向を示し、ODAとOOFを含めた非ODA開発資金を一体として活用することを謳っています。企業との連携、自衛隊や他国の軍隊との連携へとその中身を拡大し、ODAに関わる主体の多様化を一層進めようとの狙いが背景にあります。新たなODAの定義は、一部において市民の理解を超える要素を含んでおり、市民感覚から離れた方向へとODAが拡大することにより、ODAに対する市民・国民の関心が低下し、支持を得ることがさらに困難になる恐れがあります。
「持続可能な開発」「非軍事主義」「基本的人権の尊重」に基づいて貧困削減、格差の解消等の支援策を実施し、その効果を上げるためには、ODAに関する情報を積極的に公開し、市民参加による課題解決の道筋をさらに拡大する必要があります。新大綱においては市民参加と情報公開をより積極的に進める旨を明記すべきです。
以上。
2014年7月15日
特定非営利活動法人 名古屋NGOセンター
<賛同団体> 全13団体、2014年7月31日現在
公益財団法人アジア保健研修所(AHI)
特定非営利活動法人地域国際活動研究センター(CDIC)
GAIAの会
フィリピン情報センター・ナゴヤ
NGO・世界の子どもたちを貧困から守る会
特定非営利活動法人NIED・国際理解教育センター
認定特定非営利活動法人ソムニード
特定非営利活動法人タランガ・フレンドシップ・グループ
特定非営利活動法人チェルノブイリ救援・中部
国際相互理解を考える会
特定非営利活動法人泉京・垂井
不戦へのネットワーク
一般財団法人名古屋YWCA
ココアゴラ
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※参考:これまで名古屋NGOセンターが呼びかけ/賛同に加わった声明
●呼びかけ
『ODA大綱4原則における「非軍事主義」理念の堅持を求める市民声明』/問合せ先:ODA改革ネットワーク
●賛同
『途上国の開発と貧困・格差の解消に非軍事的手段で貢献するODAを =ODA 大綱見直しに関するNGO 共同声明=』/問合せ先:動く→動かす、(特活)国際協力NGOセンター
『「ODA大綱」の見直しにおける「開発教育」に関する要望書』/問合せ先:(特活)開発教育協会
『ODA大綱見直しに関する有識者懇談会」報告書に対するNGO声明』/問合せ先:(特活)国際協力NGOセンター
なお、「2014年ODA大綱見直しに関するNGOの取り組み」については、(特活)国際協力NGOセンター(JANIC)のHPにまとめられていますのでご参照ください。http://www.janic.org/news/odataiko-minaoshi2014.php