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新「開発協力大綱」に対する名古屋NGOセンター見解

2/10に閣議決定された新「開発協力大綱」について、名古屋NGOセンター理事会で「見解」をまとめ、表明いたしました。
また、外務省、マスコミ等に送付いたしましたので、お知らせいたします。

下記、PDF版ダウンロードはこちら

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閣議決定された新・開発協力大綱に対する見解

2015年2月10日、政府は開発協力大綱を閣議決定しました。
名古屋NGOセンターは新大綱の議論の過程において、有識者懇談会、意見交換会、臨時ODA政策協議会、公聴会、パブリックコメント等の機会をとらえて、国際協力NGOの基本的立場を踏まえた意見表明と提言を行いました。国益重視に基づく外交のツールとして援助を利用しないこと、非軍事主義の原則を貫くこと、貧困削減等の社会開発を優先すべきこと、途上国の経済成長の果実を取り込む姿勢をとらないこと等を求めました。
遺憾なことに、閣議決定された新大綱において、これらの意見が十分に反映されることはありませんでした。こうした結果を踏まえ、特定非営利活動法人名古屋NGOセンター理事長は新大綱に対して次のように見解を表明します。

1.援助は貧困、格差、温暖化等の影響を受けやすい人々への人道支援を中心とすべき

新大綱は経済成長を最優先するアベノミクスの経済戦略を背景として、途上
国・中所得国において開発の歯車を始動することに積極的に関与し、その成長
の活力を取り込むことが日本の国益確保の上で重要であると位置づけています。
旧ODA大綱に示された中心的理念は過去の失敗への「反省」の意味を含んでい
ました。援助を「未来への投資」と定義する新大綱は投資の「分け前」を求め
ているに等しく、その姿勢を深く憂慮します。市民の委託に基づいて行われる
公共政策としての援助は、広く国際社会全体の利益のために行われるべきであ
り、特に貧困や格差、温暖化など地球規模課題の影響を受けやすい人々への人
道支援を中心とすべきです。

2.プロセスの公開と第三者による審査によって非軍事主義を堅持すべき

新大綱は基本姿勢として非軍事主義の理念を掲げています。しかし一方で、民
生目的や災害救助等の非軍事目的であれば、相手国の軍または軍籍を有する者
への支援を行うと明記しています。軍事と非軍事の境界はきわめてあいまいで
す。紛争地においては非軍事目的の活動が状況の変化により容易に軍事行動に
転化します。軍と一体化した支援は
NGO等の援助関係者の安全を脅かす恐れがあります。非軍事主義を貫き、軍へ
の支援または軍と連携した支援を行わず、軍や治安機関から独立した立場を堅
持するために、軍または軍籍を有する者への支援に関するガイドラインを策定
し、意思決定のプロセスを公開し、市民、NGO、国会議員等の第三者による厳
密な審査を経るシステムを作ってください。

3.貧困撲滅には「質の高い成長」より社会的弱者への直接的な支援が効果的

新大綱は「質の高い成長」を実現し、それによって貧困撲滅を図ることを明記
しています。途上国だけでなく中所得国に対しても、インフラ整備や投資環境
整備、情報通信技術の導入や科学技術のイノベーション促進、フードバリュー
チェーンの構築等の支援を行うとしています。営利部門への投資や融資を拡大
する方向が明確です。しかし、公正・公平な利益の配分が行われる保証はあり
ません。また、環境破壊や格差などの企業活動の弊害を受けるのは社会的弱者
に偏りがちです。誰ひとり取りこぼさない「質の高い成長」を目指すためには、
貧困層や女性、少数民族等の社会的弱者を直接対象とした社会開発分野への支
援を優先する方が効果的です。

4.世界の平和と安定は恐怖と欠乏からの自由と平和に生きる権利の追求で実現すべき

新大綱は「積極的平和主義」に基づいて国際社会の平和と安定の実現に貢献す
る外交を展開する上で、開発協力は最も重要な手段であると位置づけ、外交政
策に基づいて開発協力政策を策定するとしています。援助が時の政権の意向に
左右され、外交や政治の道具として利用されたとき、どのような結果をもたら
すか、深く憂慮します。国家と非国家主体による暴力が拡散し、憎悪と報復の
連鎖に陥っている国際社会において、必要なのは武力や軍事力による貢献では
なく、恐怖と欠乏からの自由と平和に生きる権利の追求による貢献をおいて他
にはありません。援助の上位にあるべき規範は時の政権の短期的な政策目標で
はなく、国際社会で広く認められ、憲法にも生かされている恒久平和の理念で
あるべきです。この意味から、援助は中立性と公平性、人道主義と国際協調主
義に基づく観点からこそ行われるべきです。

5.参加と協働に基づく平和で持続可能な未来づくりこそ国民の理解を得る近

新大綱も認めるように、開発協力を安定的に継続する上で「国民の理解」は不
可欠です。しかし、投資の見返りを求める援助、軍と一体化の援助、外交の僕
となった援助は、「困った人の役に立ちたい」という素朴な市民感情に沿うも
のでしょうか。また「誰のための援助か」という視点も重要です。しかし新大
綱では経済成長が優先され、この視点は後退しています。こうした点を踏まえ、
政府と外務省に対して、非軍事主義の原則を堅持すること、一人ひとりの生活
向上を目指す社会開発分野への支援を優先すること、自国の利益確保という狭
い国益を捨て、国際公共益の追求を目的とすることを求めます。こうした取り
組みを通して、人々の参加と協働に基づく平和で持続可能な未来づくりに貢献
する援助を実現することが、国民の理解を得る近道です。